「読み・書き・計算」は「考える力」の基礎・基本ではない

「読み・書き・計算」ができないと「考える力」が育たないのなら、文字を持たないインカやアイヌには考える力がないはずである。しかし、彼らの文明や環境に適応した生活を前にしてそんな馬鹿なことを言う者はいない。

「読み・書き・計算」ができる私たちの誰もが「考える力(発明・発見をする力)」を持っているのだろうか.「読み・書き・計算」に優れている者は多い、しかし、自分の力で考えられる者は少ない。

「読み・書き・計算」は文字情報の扱い方である。私たちの世界は文字情報偏重社会である。そのため、文字情報の扱い方に長けていると「考える力」を持っているように見えるが実はそうではない。何桁もある数字を一瞬にして暗算する力は驚異的である。しかし、計算の速い者が必ずしも既知の論理空間の問題点を発見するプロブレムソルバーや新たな論理空間を構築するクリエーターになるわけではない。

確かに「読解力」が低下するとペーパーテストで問われた内容がわからず、どんな教科も正答することはできない。また、文字情報に偏重した授業も理解することができない。「読解力」が向上すれば「学力」は伸び、「考える力」は身につくのだろうか。

日本の子供の学力が高かったはずの昭和40年代、現代の子供よりも高い「読解力」があったはずの時代、「今の子供はマンガやテレビばかり見て本を読まなくなった。そのため『考える力』が弱い。」と言われていた。そして、その世代が成人すると今度は「新人類」と呼ばれ、何を考えているのかわからない世代と批判された。昭和40年代の子供の「考える力」が弱かったかどうかはわからないが、少なくとも「読解力」が「考える力」には必須だとする考えは根拠の無い主観的なものだと言える。

それでは「考える力」とは何なのだろうか?
私はそれを「イメージ操作力」だと主張する。
私たちは「イメージ」を連想・精査・理解・抽出・変形することによって考える。
文字を持たない人たちも言葉を持たない動物も「イメージ」を使って考えている。
「言葉」は「イメージ」を翻訳・保存・流通させる手段のひとつに過ぎない。

「イメージ操作力」は直接体験によって育つ力です。
運動・演劇・ダンス・音楽・美術・工作・対人経験によって身体イメージ・聴覚イメージ・視覚イメージが向上します。

もちろん、文字偏重社会に生きる私たちにとって「読み・書き・計算」を身に付けることは重要です.しかし、「考える力」の基礎・基本は「イメージ操作力」であって「読み・書き・計算」は手段にしか過ぎません.

「私は絵も歌も苦手だが、読書によって考える力を身に付けた」と反論する人がいるかもしれません。「イメージ操作力」は基礎・基本の力なので一度獲得してしまうと当たり前すぎて自覚することが困難です.また、数量化することも難しく「読み・書き・計算」のように簡単に人と比べることが出来ません。例え絵や歌が下手でも運動能力にすぐれ身体イメージ操作力が高い場合もあります。


2005年の秋、中央教育審議会初等・中等教育分科会教育課程部会。

「学校週5日制、週30時間という枠で考えざるを得ない。これまで、国語や理科、数学・算数が大事だという意見が出ていて、1時間ずつ増やす可能性がある。
新たな教育要請については、教科にどう組み込むか、また、出すものは何か検討すべき。クラブ活動、部活動は課外活動として行ってはどうか。技術・家庭、音楽、美術は選択でという意見もある」

このままだと「考える力」の基礎・基本である「イメージ操作力」を育む実技教科が学校から消えてしまうそうです。私はこの状況に強い危機感を感じています.
国語や理科、数学・算数の問題にしても、従来のように時間を増やせば解決するものではありません。「文字情報に偏重した授業」を「イメージを操作する授業」に改善しない限り、いつまでたっても「考える力」を身に付けることはできないでしょう。

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この記事へのコメント

シカゴ
2008年01月12日 05:34
酒井さん、こんにちは。

『ことば掲示板』↓を久しぶりに読み返していて酒井さんのご投稿(No.227)を拝見し書かれていたホームページアドレスをたどってこのブログを知りました。
http://otd9.jbbs.livedoor.jp/okr_kotobabbs/bbs_tree
表現に直接関わっている方はやはり人間の意識や認識について本質的な把握をなさるものだなと感じました。
この記事で酒井さんがおっしゃっている「イメージ」というのは私のいう観念あるいは個別概念に相当するものだと思いますが、思考力というのはこのイメージや個別概念のもつ構造や普遍的な側面を概念的に把握する力ではないかと私自身は思っております。この「概念的に把握する」というのはまさに酒井さんのおっしゃる「イメージ操作」であり、「イメージ」を連想・精査・理解・抽出・変形することなのではないかと思いました。

その後私もことばについてのブログを立ち上げてぼちぼちと記事を書いております。ごあいさつ代わりにトラックバックを送りました。
酒井
2008年01月12日 06:57
こんにちはシカゴ・ブルースさん
エントリーを拝読させていただきました。
言葉は悪いのですが、世間には言葉や論理に対する偏愛がはびこっているのだなと改めて思いました。
進化論の文脈で語れない言説は現実ばなれしている(もしくは信用できない)と最近は考えています。シカゴ・ブルースさんのように現実から物事を考える人が沢山現れことを願っています。
aritnepaffiny
2012年06月08日 07:30
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aritnepaffiny
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aritnepaffiny
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